健康・未病のめやす – 疲れに効く栄養素と食事ー健康・未病と毛細血管 第2回

筆者:渡辺恭良

Wellness PLUSサイトでは、“疲れのメカニズム”を詳しく紹介しました。

リンク:阪急阪神沿線 Wellness PLUS
https://healthcare.hankyu-hanshin.co.jp/

こちらのサイトでは、私の研究のひとつである”疲れに効く栄養素と食材”について詳しくお話をします。
また、あっと社の宮良さんがWellness PLUSのページで紹介した、”疲れに効くレシピ”について詳しい内容を紹介します。

毛細血管と酸化

Wellness PLUSでは、活性酸素による細胞のダメージがきっかけとなって脳が疲れを感じる「疲労共通のコアメカニズム」をお話ししてきました。

血管は人間にとってとても重要な組織・器官ですが、その血管は細胞の集まりでもあるのです。

次に、活性酸素による細胞のダメージを受けた毛細血管と考えられている事例(ねじれた毛細血管画像)を紹介します。

正常な毛細血管

正常な毛細血管

ねじれた毛細血管

ダメージを受けた毛細血管。

あっと株式会社提供

図:正常な形状の毛細血管と、ねじれた毛細血管

動脈や細動脈が細胞に加えてコラーゲン組織などによる多層構造になっているのに対し、毛細血管は内皮細胞とその周りに取り付く周皮細胞(ペリサイトとも呼ばれます)の2層だけで構成されるとても繊細な組織です。
疲れやストレスなど何らかの理由で活性酸素が増えると、その影響が毛細血管の細胞にも及びます。構成細胞でも特に外側の周皮細胞への影響があり、形状が変化すると考えられています。周皮細胞は毛細血管の秩序を司っている細胞とされる重要な細胞です。
このように、毛細血管を観察することで身体の状態を評価できます

抗疲労に効果のある栄養素と食材

疲労回復のポイントは

  1. 細胞を傷つける活性酸素の発生を抑える
  2. 発生した活性酸素を解消すること
  3. 傷ついた細胞内部品や細胞を修復し活性化する栄養素を摂ること


その3つからなる「疲労回復システム」です。
活性酸素を消去する抗酸化物質や抗酸化反応(還元反応)をスムーズに行うために、食事から抗酸化作用のある栄養素を取り入れることが重要となります。

近年、疲労の回復の度合いを計測する指標(バイオマーカー)の開発が進み、食品や機能性素材の効能試験が行われ、特に抗疲労医薬品の開発が進んでいます。私たちは、「抗疲労食」について抗疲労食品開発を目指す研究プロジェクトを多くの企業や大学と行い、さまざまな食品素材の効果を評価し論文化してきました。
その中で、私たちがその効果を確認してきた素材が以下になります。

栄養素展開図

これらは、エネルギーを増大させる物質や抗疲労に効果がある物質と、それを多く含む食品のリストになります。この中でも、特にイミダゾールジペプチドが理想的な抗疲労食品であることがわかりました。酸化物を減らし運動性疲労で増加する炎症物質(TGF-β)の上昇を抑え、疲労感とパフォーマンス双方の改善に効果があります。

その他にも
  • アップルフェノン(リンゴポリフェノールのひとつ)
  • D-リボース
  • 茶カテキン
  • クロセチン
など、抗疲労の効果について明らかにしてきました。

これらの栄養素のうち、例えば還元型コエンザイムなどは、食事のみで摂取するには現実的ではない栄養素もあります。また、栄養素は単独で役割を果たすのではなく、お互いに助け合ってパワーを発揮します。ひとつの栄養素・食品に偏らず、疲労回復に有効な栄養素を色々と組み合わせてバランスよく摂るようにし、補助的にサプリメント等で補うことも良いでしょう。

また、身体の構成に欠かせないタンパク質は毎日欠かさず摂るように心がけましょう。代謝に不可欠な酸素や免疫の抗体などもタンパク質は主たる材料です。

疲労回復!炊飯器で”しっとり鶏ハムレシピ”

ではここで、Wellness PLUSでご紹介した、”しっとり鶏ハム”のレシピについて詳しく解説します。

しっとり鶏ハム

鶏むね肉を使います。含まれる栄養素は、イミダゾールジペプチド、ビタミンB1、パントテン酸、タンパク質が豊富です(添え付けのブロッコリーは、還元型コエンザイムQ10参加型)。
しかし、どうしても鶏むね肉はパサつきやすいため、今回は調理方法を工夫しました。

◆作り方◆

材料(3人分)

  • 鶏むね肉・・・300g
  • 塩糀・・・大さじ1
  • ハーブソルト・・・小さじ1
  • こしょう・・・少々
  • ローズマリー・・・なくても大丈夫
材料

1.皮を剥ぎ取り、厚みが均一になるように開く

鶏むね肉を開く

2.塩糀を全体的に塗り、ポリ袋などに入れて軽く揉み込み15分ほどおきます

3.鶏むね肉が入る大きめの鍋に湯を沸かす

4.②の塩糀を軽く拭き取り、ハーブソルトを全体にまぶしてチャック付き保存袋に入れ、空気を抜いてチャックを閉める(ローズマリーがある場合はここで入れる)

チャック付き保存袋に入れる

5.炊飯器に③で沸かした湯と④を入れる。保温機能で80分、温度を65~70℃に維持しながら低温調理をする

炊飯器で低温調理

粗熱が取れたら胡椒を振り、食べやすい大きさにカットしてできあがり

◆”しっとりポイント”◆
ポイント1:塩糀に漬け込む

 今回は、イミダゾールジペプチドやビタミンB群のような”水に溶けやすい”栄養素の流出を最小限にするために、塩糀での漬け込みを採用しました。

ポイント2:低温調理

 高温調理はどうしても水分が抜けやすく固くなりがちですので、低温で時間をかけて熱を加えることでしっとり仕上がります。
※炊飯器の保温機能はおおよそ60~75℃ですので、炊飯器を使うことで美味しく手軽にできます。保温温度はご利用の炊飯器によって違いますので、確認の上60℃を下回らず75℃を超えない温度で、保温時間も適宜調整してみてください。

◆展開レシピ◆
  • 鶏ハムを裂いてピーラーで細く切ったニンジンとごま油、醤油で和えたら副菜1品出来上がり
  • 厚めにカットしてアボガド、レタス、トマトなどを挟んでサンドイッチに・・・

リンク:阪急阪神HD社 いきいき羅針盤アプリ
https://healthcare.hankyu-hanshin.co.jp/app/

あっと株式会社は、大阪の毛細血管観察装置を開発する会社ですが、神戸リサーチコンプレックスに参画したメンバーのひとつです。爪先の毛細血管の形状を計測し数値化する人工知能技術を、大阪大学と世界で初めて開発した企業ですが、彼らの技術により爪先の毛細血管形状を、私の取り組みである健康関数の一つの要素として取り入れることができました。この研究からは、特に、毛細血管の太さがLDLコレステロールの量と関係していることがわかり、脂質異常のリスクを評価できることがわかりました

理研リサーチコンプレックスでの、あっと毛細血管スコープを用いたデータの取得

神戸リサーチコンプレックスでの研究プログラムは2020年3月で終了しましたが、このようにあヘルスケア産業に関わる多くの企業が、筆者が提唱する健康関数を活用して新たなサービス開発に取り組んでいます。

*)理化学研究所とあっと株式会社はその技術を特許にしました。

続く…

あっと社の毛細血管スコープ 血管美人は神奈川県のME-BYO BRANDに認定されています。https://www.pref.kanagawa.jp/docs/mv4/cnt/f531787/p1078097.html#atto

阪急阪神 健康づくり応援サイト Wellness PLUS内の記事
https://healthcare.hankyu-hanshin.co.jp/column/47654/ 

渡辺先生プロフィール

京都大学医学部卒、京都大学大学院医学系研究科修了(医学博士)、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、同健康科学イノベーションセンター・所長、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・同ライフサイエンス技術基盤センター・双方のセンター長、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックスプログラム・プログラムディレクターを経て、現職(理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪公立大学健康科学イノベーションセンター・顧問、大阪公立大学名誉教授など) ベルツ賞、文部科学大臣表彰科学技術賞など受賞。原著英語論文512報、特許出願94件など