糖化を抑えて抗老化するためにはー健康・未病と毛細血管 第4回

糖化を避ける生活習慣

糖化を避けるために推奨される生活習慣は主に、

  • 食事の取り方を工夫する(血糖値スパイクを避ける食習慣)
  • AGEsの多い食事を避ける(AGEsの取り込みを避ける)
  • 身体活動が多い(糖質を消費しやすい生活習慣)
  • 禁煙する(糖化の加速因子となる酸化物質を削減)
  • 十分な睡眠をとる(糖化の加速因子となる酸化物質を削減)
  • ストレスへの対処(糖化の加速因子となる酸化物質を削減)

などが挙げられます。これらは、メタボにならない生活習慣とほぼ同じです。

まず第一に、糖化というくらいですので、その原因物質の糖質をなるだけ増やさないことが重要です。といっても、糖質は人間が生きるために必要なエネルギー源なので、極端に減らすことはしないでください。このコラムでは、AGEsの生成に使われる“余分な糖質“を体内で最小限にする工夫や取り組みを、詳しくお伝えします。

AGEsを体の中で増やさない食事の仕方

AGEsを増やさないためには、もちろん、糖質のとり過ぎはNGです。

Wellnessplusのコラムでは、食物繊維の多い朝食を取ることで食後の血糖値が上がりにくくなること、セカンドミールについてお話ししました。まず最初に食物繊維を含む野菜から食べ、次に肉・魚などのたんぱく質、最後に糖質のご飯やパンをとること、この食べる「順番」重要なポイントです。これは、野菜に含まれている食物繊維が最初に腸に到達することで、後からやってくる糖質の消化吸収がゆっくりになり、血糖値上昇が緩やかになることが理由として考えられています。

また、炭水化物については、GI値が小さい雑穀米や玄米を適量食べることをお勧めします。このように、血糖値が上がりにくい食べ方を心がければ、AGEsを抑えることにもなります。GI値とは、「グリセミックインデックス(Glycemic index)」といい、食品が血糖上昇に与える影響の指標です。

これは、糖尿病・インスリン研究を世界的に牽引してきたカナダ・トロント大学の、ジェンキンズ博士たちの研究成果で、彼らはセカンドミール効果の提唱者でもあります。図に示した低いGI値の食事は、糖質に加えミネラルやビタミンが含まれており栄養も豊富で、その点でもおすすめです。

目的は、食後に血糖値が急激に上昇する現象;血糖値スパイクをさけ、血液中を循環する余分な糖質を減らし、糖化を最小限にすること。同じ量の糖質でも、食品、食べる順番を工夫することで、糖化を起こしにくい習慣を作れます。

筋肉と運動と血糖値…

食後の血糖値スパイクへの対策には、筋肉を鍛えて増やすことも効果的です。筋肉が減るとブドウ糖消費量が減りますが、筋肉には血糖値コントロールに有効な役割があります。筋肉にはブドウ糖(グリコーゲン)を筋グリコーゲンとして蓄積する機能があり、筋肉量が多ければ多いほど、摂取した糖質をグリコーゲンとして筋肉が受け入れてくれます。筋グリコーゲンは1,5002,000kcalほど貯蔵されますが、全て筋肉の運動に使うために蓄えられ、肝臓のグリコーゲンと異なり、血糖の維持には使われません。およそ、体内のグリコーゲンの8割が筋グリコーゲンとして蓄えられています。

食後に軽い運動をすることで、摂取した糖質を消費できるため血糖値スパイクを緩めることが可能です。また、運動の効果として筋肉細胞や脂肪細胞がグリコーゲンへの取り入れ口(グルコーストランスポーター)を開き、細胞への糖質の取り込みを増やすことがわかっています。糖尿病ではインスリン抵抗性のため細胞のグリコーゲンの取り込みが低下しますが、運動によりこのメカニズムが活性化し糖質の取り入れが進みます。このように、運動習慣は血糖に対して、二重、三重の良い効果が期待されるのです。

AGEsは食欲を誘う? AGEsを外から入れない調理方法

AGEsは、食品にも含まれており、食事から取り込まれるものもあります。糖化とは「メイラード反応」という化学反応で、グルコースなどの還元糖とたんぱく質などのアミノ化合物を加熱すると、褐色物質(メラノイジン)が生まれるという非酵素的な反応です。そんな難しい表現よりも…狐色に焼けたホカホカのホットケーキを思い出してください。調理の過程で、香ばしい匂いがしたり、おいしそうなキツネ色がついたりするのは、そのメラノイジンが発生するからです。玉ねぎをゆっくり炒めると茶色に変わってくるのもメラノイジン、褐色に焙煎されたコーヒーの色もメラノイジンです。一流の料理人はメラノイジンをうまく使いこなし、おいしい料理を作っています。

メイラード反応は、食べ物を香ばしくおいしくすると同時に、AGEsを生み出す反応でもあります。食事由来のコゲであるAGEsをたくさん食べ続けると、体に蓄積し体の老化を進めるリスクが高くなります。摂取した全てのAGEs量ではないですが、7%程度が体内にも蓄積されると言われており、一般的に、1日あたり10,00015,000KU(単位)を超えないのが望ましいとも言われています。

では、具体的に調理法が変わると、AGEsの量がどのように変化するかみてみましょう。鶏むね肉90gの食べ方です。まず、皮付きのままパン粉をまぶし油で20分間揚げたときのAGEs含有量は8750KU(キロユニット)となります。これで、1日分のAGEsの上限になりますね。次に、皮つきで45分間焼く方法だと5975KUになります。皮を取り除いて、短めに15分間焼く方法なら5245KUと少し下げることができます。電子レンジで5分間調理した場合、1300KU以上になります。

揚げ物、焼き物に比べれば少ないとはいえ、加熱により、ある程度はAGEsの含有量が多くなることが分かります。ゆでる料理にすればAGEs含有量はさらに下がリます。15分間ゆでると1000KU以下になります。調理をしない生のまま食べれば、700KU以下になります。

ちなみに、鶏むね肉を同じ量(90g)の豆腐にすれば、AGEsはわずか439KUです。しかし、焼き豆腐にすると、やはり4000KU程度まで増加します。

抗老化に向けた生活習慣

こちらでは、AGEsを生成しにくい・取りこみにくい生活習慣と言うテーマで、特に食事の工夫、運動や筋肉増強の有効性について、詳しくご紹介しました。もちろん、疲れに起因する酸化物質はAGEsの生成を促し加速するため、睡眠や休息により疲労回復を欠かさないようにしてください。

このコラムを提供している、あっと社では、一般の生活者の皆さんの協力のもと、健康改善・増進の取り組みを管理するシステムの研究開発、臨床研究を行っています。そこでは、同社の毛細血管観察・測定技術により、かなり多くの割合の方に糖化に典型的な毛細血管がみられています(下左図;糖化・酸化型)。

他方、“体づくり”に必要な食事習慣や生活習慣が満足できていない状態も多くあるようです(上右図;濁り型)。この血管像は、漢方の言葉で言う“瘀血状態”の血管画像になります。状態的には、糖化よりも好ましくない状態で、より老化が進む可能性もあります。身体の組織・臓器の再構築や良質血液に必要なタンパク質や、組織作りに必須かつ酸化・糖化の抑制にも効果のあるビタミン類、またミネラルなどの摂取が不十分な状態と考えられます。

現代では、ヒトの生命維持に十分な熱量の食事を取ることは比較的容易ですが、身体を健全に維持するための必要な栄養素を食事だけから十分に摂取するには制約があります。取りにくい栄養素は補助食品なども使って“賢く”摂取されることも選択肢の一つと考えられます。

上手に生活習慣を管理すれば、糖化の血管状態、瘀血の血管状態ともに、状態は改善します。日常生活の中で、個々人が自分の年齢にあった健康増進の自覚をもち、生活の状態に応じ、より具体的なアンチエイジングを試み、個々人のその時の最善の心身状態を目指していただければと思います。

筆者:伊賀瀬 道也

愛媛大学医学部卒、同大学院医学系研究科修了(医学博士)、同附属病院、公立学校共済組合近畿中央病院勤務の後、愛媛大学医学部老年科助手、米国Wake Forest大学・高血圧血管病センター・リサーチフェロー、愛媛大学医学部加齢制御内科講師、同附属病院抗加齢予防医療センター長、同老年神経総合診療内科准教授、同特任教授を経て、同大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授(現職)Wake Forestリサーチデイゴールドアワード(第1位)、ノバルティスアワードなど受賞。原著英語論文287報など。


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